子どもの就寝時間は夜8時が理想的 日本人初の乳幼児睡眠コンサルタントが語る日米の違いとは〈dot.〉


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4月から保育園の入園が決まり、育休が明けて仕事復帰したという人も多いだろう。親子ともに生活が大きく変化し、睡眠リズムが乱れやすい時期だ。乳幼児期に睡眠・生活リズムを整えることは、その後のさまざまな問題回避にもつながるという。ママ友マッチングアプリを運営し、2人目の子どもを出産したばかりのカーティス裕子さんが、日本人初となる乳幼児睡眠コンサルタントの国際認定資格を取得した二児の母の愛波文さんに話を聞いた。

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カーティス:愛波さんはアメリカで出産後、赤ちゃんの寝かしつけに苦労された経験から、乳幼児の睡眠の勉強を始められたそうですね。

愛波: 2012年に長男を出産しました。当時は結婚してサンフランシスコに移り住んだばかりで、頼れる親も友達もいない状況でした。赤ちゃんをずっと抱っこして、やっと寝たと思ってベッドに置くと泣く、そのくり返しの毎日に、ときには抱っこしながら涙があふれ、ごはんも食べられず、わが子をかわいいとも思えず、苦しい思いをしていました。このままではおかしくなると思い、ママ友のSNSグループで知った、生後6カ月のママが集まるオフ会に勇気を出して参加したんです。「寝れないよね。そうだよね。大丈夫?」という共感や励ましの言葉が聞きたくて行ったのに、そこで「3時間もバランスボールに座りながら寝かしつけをしていて、ほとんど寝ていない」と話したら、ママ友に怒られたんです。「ハッピーなママじゃないとダメだよ」って。そのときに渡された一冊の本が、科学的根拠に基づいた、小児科医が書いた睡眠の本でした。そのジャンルの本がほかにもあることを知り、片っ端から15冊くらい、さらに医学論文も読みあさりました。アメリカではみんな妊娠中からそういう本を読んで知識を得ているんです。「子どもが生まれたらどこに寝かせるか」ということも、出産前に夫婦で話し合っています。日本と違って「子どもはママといっしょに寝る」のは当たり前ではなかったんです。

カーティス:私も1人目はアメリカで出産しましたが、本は全然読んでいませんでした。同じ部屋にベビーベッドを置いていましたが、アメリカでは赤ちゃんとは別室が多いんですか?

愛波:年齢によって変わります。米国小児科学会は、1歳までは同室でベビーベッドを推奨しています。実際に1歳くらいまではそういう家庭がほとんどです。

カーティス:なるほど。そもそも「乳幼児睡眠コンサルタント」とは、どのような資格なのでしょうか?

愛波:2010年にアメリカでできた国際認定資格です。私が日本代表を務めるIPHI(International Parenting and Health Institute)は、世界46カ国に拠点を持ち、育児に関するさまざまな認定資格を提供している団体です。各家庭の育児スタイルや生活にあった睡眠の改善方法を提供しています。今では世界中で受講者が活躍し、私以外の日本人のコンサルタントも全国で増えています。

カーティス:はじめから睡眠コンサルタントとして活動するという目標があって資格取得を目指したのですか?

愛波:はじめは自分の子どもの育児のためでした。乳幼児の睡眠の本や論文をたくさん読み、長男が10カ月のときに独自のねんねトレーニングをやってみたら、毎晩7時に寝て朝まで起きないので自分の時間を持てたんです。余裕ができたので、再就職して、同時に睡眠のことを深く学ぶことにしました。通勤の車の中で講義を聞き、お昼休みに課題をやり、終わらなければ子どもが寝た後に勉強していました。

カーティス:資格取得までの勉強期間はどれくらいでしたか?

愛波:1年半くらいかかったと思います。その間もまわりのママ友に「ねんねの悩みない?」など質問して、勉強した知識をアウトプットしながら無料でコンサルテーションを行っていました。

カーティス:愛波さんが資格を取得して、コンサルタントとしての活動を始められた2014年ごろ、日本には乳幼児の睡眠の悩みについてコンサルを受けるという文化はありましたか?

愛波:まったくないどころか、「なにそれ?」と怪しまれていました(笑)。でも私は必要だと思ったから、ひたすら活動を続けました。徐々に、徐々に広まって、今は日本に220名くらいの生徒さんがいます。睡眠に関する本も出版されるようになり、手応えを感じていますが、そもそも日本人は睡眠の悩みには解決策がないと思っている。「ママは夜中に起こされて授乳するのが当たり前」「ママが睡眠不足になって当たり前」という文化が残っているように感じます。

カーティス:アメリカでは働く女性が産休を取っても、4カ月程度で職場に戻るのが普通ですよね。そういうことも影響しているのでしょうか。

愛波:そうですね。アメリカと日本のママを見ていて明らかに違うのは、アメリカのママたちは「自分の時間をどう捻出するか」「自分がハッピーになるためにどうすればいいんだろう?」ということを考えている。「この子が寝なければ、私はジムに行けない!」というような考え方は、日本人からは自己中心的に聞こえてしまうのかもしれません。

カーティス:日本には「ママは子育てに苦労するのが当たり前」、「自己犠牲が当たり前」という考え方が浸透しているのかもしれません。

愛波:子育ては保育者がハッピーであることが大事です。保育者の心情は子どもに全部伝わります。睡眠の勉強をして、いろいろなママたちをみてきて、本当にそう思います。

カーティス:ニューヨークでは1泊何十万円も払ってナイトナース(夜間のベビーシッター)を雇う夫婦共働き家庭もあると聞きますが、実際はどうですか? 

愛波:ニューヨークは特に高いですが、1泊10万円を超えるところもあれば、200ドルくらいのところも、1時間80ドルというところもあります。出産後1カ月ほど毎晩頼むケースが多いので、利用しているのはやはり裕福な家庭がほとんどです。夜に赤ちゃんを見てくれて、授乳の時間だけ赤ちゃんをママのところに連れてきてくれるので、ママはゆっくり寝られます。日本では、夜間自分の家に他人を入れることに抵抗のある方が多いので、なかなか難しいかもしれません。

カーティス:ここからは、乳幼児期の睡眠の重要性について教えてください。

愛波:生活リズム、体内リズムを整えることで睡眠の悩みや問題を回避でき、学習能力が上がるということがわかっています。夜中の授乳は、生後6カ月くらいまでは必要ですが、離乳食が始まると夜8時間くらい続けて寝られる体の準備が整ってきます。その時期を過ぎても夜中に3回以上、または60分以上起きてしまう場合や、1歳を過ぎても夜中に頻繁に起きる子は睡眠改善が必要。たとえその状況にママが困っていなくても、子どものためにもっとぐっすり寝かせてあげることが大事なんです。乳幼児期に睡眠や生活のリズムを整えることは、小学校に上がってからの学力低下や不登校、いじめなどの問題につなげないためにも重要です。

カーティス:ママも十分に睡眠をとれば、ストレスが減りますよね。

愛波:睡眠不足になると、イライラしたり、うつになったりする可能性が上がるということもわかっています。睡眠は本当に大事です。

カーティス:4月から育休が明けて仕事に復帰した方も多いです。子どもの生活リズムが変わり、お昼寝のタイミングなど新たな悩みが出てくるケースも多いと思います。

愛波:子どもはもちろん、ママ自身の生活リズムを整えてあげることも大事ですね。まずはきちんと朝日を浴びましょう。1歳前後で仕事に復帰する場合、保育園でのお昼寝不足が問題になることが多いです。子どものベストな活動時間と合計睡眠時間は成長とともに変わりますが(表)、10カ月~1歳2カ月までは活動時間が約4時間、つまり日中は、朝寝と昼寝の2回睡眠が必要です。それが1歳児クラスではお昼寝が1回だったり、子どもによっては保育園ではまったく寝なかったり、ということもあります。そういう場合は、夕方お迎えに行ったら、帰りに抱っこでもベビーカーでもいいから30~45分寝かせましょう。ここで仮眠を取ることで、帰宅後のお風呂やごはん時のグズグズやかんしゃくがなくなり、夜もスムーズに寝てくれて夜泣きが少なくなります。

カーティス:「ここで寝かせると、夜寝てくれないんじゃないか」と心配しがちですが、その後を機嫌よく過ごすためにも仮眠が必要なんですね。

愛波:日本人のママは食事のことにも一生懸命ですが、お迎え時間が遅い日は、おにぎりを持って行って帰りにすぐ食べさせ、家では具だくさんみそ汁で済ませるのもありだと思います。なるべく早く寝かしつけることのほうが大切です。保育園児なのに10時に寝ているご家庭もありますが、それはちょっと遅すぎます。小学生でも、最近は塾に通う子が多いから、寝る時間が遅いですよね。なるべく早く寝てほしい。

カーティス:うちの子もけっこう遅く、9時半くらいになってしまいます。

愛波:本当は8時に……と言いたいところですが、9時には絶対寝ていてほしいです。うちの子どもたちは8歳と5歳ですが、8時半には寝かせています。朝起きるのは6時半か7時。それくらい寝ないと疲れがとれないだけでなく、睡眠不足が不登校やADHD(注意欠如・多動症)の原因となる可能性もあることが科学的にわかっています。

カーティス:愛波さんは世界中に生徒さんがいて、睡眠コンサルタントになる方もどんどん増えていると思いますが、活動されているのはメソッドを知ってほしいからですか? それとも睡眠コンサルを受ける文化を日本に広めたいとお考えですか?

愛波:どんな寝かしつけ方法でも、親が幸せならいいと思っています。私がこの活動をしている理由は、保育者の方たちがひとりでも多く、乳幼児の睡眠の悩みから解放されてハッピーな子育てができるようになってほしいからです。睡眠の悩みは必ず改善します。お子さんの睡眠の悩みが改善されると、ママ・パパ(保育者)も充分な睡眠がとれるようになる。それにより、パパもママも子育て以外で輝ける場所ができ、人生を楽しんでもらえたらというのが究極の目標です。睡眠のことで迷っていたら、悩んでいたら、もっともっと助けを求めてほしい。質のいい睡眠を小さなころからプレゼントすることは、子どもにとって一生の宝になります。

(構成/高丸昌子)

◆プロフィール
あいば・あや/日本人初の乳幼児睡眠コンサルタント。IPHI日本代表。慶應義塾大学教育学専攻卒。2012年に長男、2015年に次男を出産。米国IPHI公認資格(国際認定資格)取得。現在、ニューヨークを拠点に企業やイベント講演を行うほか、子どもの睡眠に悩むママ・パパ向けのSleeping Smart子育てサロン、睡眠・子育て・教育について配信する愛波LIVEを運営。IPHIと提携し、オンラインで妊婦と乳幼児の睡眠コンサルタント資格取得講座の講師も務めている。著書に「ママと赤ちゃんのぐっすり本」(講談社)、「マンガでよむ ぐっすり眠る赤ちゃんの寝かせ方」(主婦の友社)、監修書に「ママにいいこと大全」(主婦の友社)。
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かーてぃす・ゆうこ/1989年生まれ。ニューヨークを拠点に、3歳と0歳の子ども、アメリカ人の夫と暮らす。大学卒業後、東京の外資系金融に入社し、その後ニューヨーク本社に転勤。2019年10月にママ友マッチングアプリ「MAMATALK」をリリース。MAMATALK公式Instagramでは、子連れお出かけスポットの紹介やインスタライブを発信中。また、次世代アーティストとデザインコラボする、オーガニックコットンのベビーブランド「Little Gifted」も展開中。


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