子どもの脳内ネットワーク強度に「母親による」絵本読み聞かせが関連-金沢大ほか





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読み聞かせが子どもの脳やその発達に与える影響は?

金沢大学は8月2日、産学官連携のプロジェクトで開発した「」を活用し、絵本を読み聞かせ中の子どもの脳反応は、読み手の親密性(母親かそうでないか)によって異なることを明らかにしたと発表した。この研究は、同大子どものこころの発達研究センター(協力研究員)/日本学術振興会の長谷川千秋氏と、同センター(協力研究員)/ 福井大学医学部精神医学(客員准教授)/魚津神経サナトリウム(副院長)の高橋哲也氏、同センターの池田尊司氏、金沢大学医薬保健研究域医学精神行動科学の菊知充教授と、千葉工業大学との共同研究グループによるもの。研究成果は、「NeuroImage」のオンライン版に掲載されている。


子どもへの絵本の読み聞かせは、言語能力、認知能力、社会性の発達を促進するというこれまでの知見から、米国小児科学会(American Academy of Pediatrics)は生後できるだけ早い時期から子どもへの読み聞かせ活動を行うことを推奨している。2者または複数人で行われる読み聞かせは、単なる活字を読み上げる行動ということにはとどまらず、日常生活における相互的コミュニケーション活動としての意味を持っている。しかし、読み聞かせが子どもの脳やその発達に与える影響については、脳画像研究の分野で十分な研究が進んでいるとは言えない。

狭い空間に入る必要がなく放射線も用いない「幼児用MEG」を用いて研究

読み聞かせ中の脳内では、一次的な視覚・聴覚情報処理から、ストーリー理解や共感などの高次処理まで、さまざまな認知処理が複数の脳部位を巻き込んだ脳内ネットワークの下で行われる。近年では、脳内ネットワーク活動の包括的な評価を可能にするグラフ理論が注目されており、脳磁計(Magnetoencephalography:)を含めたさまざまな脳機能画像への適用が精力的に進められている。

今回の研究で用いられた幼児用MEGは、MEGを幼児用に開発したもので、超伝導センサー技術(SQUID磁束計)を用いて、体に全く害のない方法で頭皮上から脳の微弱磁場を計測する装置。幼児用MEGでは超伝導センサーを幼児の頭のサイズに合わせ、頭全体をカバーするように配置することにより、神経の活動を高感度で記録することが可能だ。MEGは神経の電気的な活動を直接捉え、その優れた時間分解能(ミリ秒単位)と高い空間分解能から、脳の機能を評価する方法として期待されている。さらに、MEGは放射線を用いておらず、狭い空間に入る必要がないことから、幼児期の脳機能検査として存在意義が高まっている。

4~10歳の子ども15人対象、母親と他人時の脳活動を計測しグラフ理論で評価

今回、研究グループは、読み聞かせが子どもの脳に与える効果を解明するために、母親と見知らぬ他人が絵本の読み聞かせを行っている間の子どもの脳活動を計測した。研究には、4歳から10歳の発達障害の既往のない定型発達の子どもたち15人が参加。参加者が、自分の母親(母親条件)と、見知らぬ女性の検査者(他人条件)の読み聞かせを聴いているときの脳活動を、非侵襲的な幼児専用のMEGを用いて測定した。

具体的には、読み手(母親と検査者)が参加者の傍らに座り、絵本の文章を読み上げた。参加者の目の前に置かれたスクリーンに絵本のページが呈示され、参加者はそのスクリーンを見ながら読み聞かせを聞いた。脳内ネットワーク活動の指標には、グラフ理論を用い、それぞれの周波数帯域(デルタ波、シータ波、アルファ波、ベータ波、ガンマ波)における各脳部位の「ネットワーク強度」と脳全体の「効率性(スモールワールド性)」を評価した。行動面の反応の指標として、ビデオカメラで撮影された読み聞かせ中の子どもの表情を解析し、「画面への集中度」と「表情のポジティブ度」を評価した。

母親の方が脳内ネットワークの強度が高まり、より効率的な脳活動状態だった

その結果、母親の読み聞かせ聴取時には、アルファ帯域の脳内ネットワークの強度が脳全域において強くなっていることが明らかになった。また、母親の読み聞かせ聴取時のアルファ帯域の全脳ネットワークは、局所的な分離度が高く、大域的な統合度が高いというスモールワールド性を示し、効率の良いネットワーク構造であることが示された。また、表情評価による行動解析の結果から、母親条件では、他人条件に比べて、子どもの集中度が高く、よりポジティブな表情(例、笑顔)を見せると判明。これらの行動指標は、母親条件のみで脳内ネットワーク指標(ネットワーク強度とスモールワールド性)と有意に相関した。グラフ理論をMEGデータに適用することで、読み聞かせ中という自然な環境下においても、親密性に関連した子どもの脳反応と行動反応に関する有益な知見が得られる可能性が示唆された。

これまでの脳研究の主流は、特定の脳機能に焦点を絞った精緻な実験課題の下で行われてきた。しかし今回の研究では、MEGを用いることで「絵本の読み聞かせ課題」という、より日常生活に近い自然な状態における脳活動の計測を可能にすることができた。子どもにとってなじみのある人が絵本読み聞かせを行うことで子どもが快適でリラックスできる状況を作り出すことができる可能性がある。今回は、母親と検査者の比較に焦点を絞って研究が行われたが、父親や他の養育者、また保育士や教員などの家族以外の親しい大人の読み聞かせの効果も検証していく事が必要。「今後は、子どもの言語能力、認知能力、社会性を高めるために、より効果的な読み聞かせはどのようなものなのか、さらなる研究が必要とされる」と、研究グループは述べている。



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