子ども1人10万円給付、大学無償化…「子育て・教育」に本気で取り組む政党は? 衆院選公約を独自採点





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いま日本で大きな課題になっているのは、子育てや教育にかかる負担の大きさだ。衆院選での各党の公約を見ると、こうした課題に向き合う政策が多く並ぶ。その中身を検証すると、「子育て世帯に寄り添う」政策もあれば、「中身がスカスカ」と指摘される政策も。各党が公約に掲げる政策の魅力や実現度を専門家に採点してもらうとともに、AERA dot.が独自に入手した政府内での政策評価を紹介する。

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「自民党だけ子育て、教育に関する政策がスカスカですね」

 こう話すのは、教育行政に詳しい日本大の末冨芳教授だ。


自民党の出産・子育てに関する政策を見てみると、「ベビーシッターを利用しやすい経済支援を行う」、「『待機児童の減少』『病児保育の拡充』『児童手当の強化』を目指す」とある。9月に行われた自民党の総裁選では子ども庁の創設、子ども関連予算の倍増など活発な政策論議が行われ、「子ども政策バブル」と言われるほどだったが、こうした目玉政策は姿を消し、物足りなさが漂う。

 なぜこのような公約になったのか。末冨教授はこう見る。

「党の力が強く、岸田首相のカラーが後退したのでしょう。子育てすること自体が親子につらく罰を受けるようなことになっている状況を『子育て罰』と呼んでいますが、自民党は子育て罰路線のままでは、と心配です。子どもをまん中において議論した総裁選はどこにいったのか。公約からは親子に冷たく、厳しい政党であると判断せざるを得ません」

 その他の政党からはどういった政策が出てきているのか。編集部で各党の政策パンフレットなどを参照し、生活者の収入や支出に関わる主な政策をまとめた(表)。

 この表をもとに末冨教授と、政治・行政の現場に詳しい選挙アナリストの岡高志さんに評価を依頼した。「政策が国民に対し訴えるものになっているか」「政策が課題の解決につながるか」「財源や国会内での勢力の面からみて実現性はどの程度あるのか」の3つを、それぞれ「魅力度」「効果」「実現度」として、A~Eの5段階で評価してもらっている。

 自民党の政策とは対照的に、公明党、立憲民主党、国民民主党、日本共産党の各党の子育て政策は充実している。

 公明党は「出産育児一時金(42万円)を増額」、「0歳から高校3年生までの子どもたちに『未来応援給付』(一人あたり一律10万円相当の支援)を実施」を掲げる。

 立憲民主党は「高校の授業料無償化について、所得制限を撤廃」、「義務教育の学校給食を無償化」、「児童手当の所得制限を撤廃し、対象を高校卒業年次まで拡大」、日本共産党は「児童手当の18歳までの支給、児童扶養手当、就学援助の額と対象の拡大など現金給付を拡充」、「私立高校の負担の軽減をすすめ、高校教育の無償化」などを掲げる。れいわ新選組も「教育は完全無償化、小中学校に無償給食」、「児童手当を2倍、毎月3万円支給。高校生相当の年齢まで拡充」と手厚い政策を訴える。

 各党の政策をみるポイントは何か。末冨教授はこう話す。

「臨時給付金の有無が争点になっていますが、重要なのは恒常的な子育て支援をどう実現するかです。児童手当の所得制限の撤廃や拡充、出産の無償化、教育の無償化にどう向き合っているかがポイント。公明、立憲、共産、国民は子育て世帯に寄り添い、課題に取り組んでいこうとする姿勢が強く伺えます」

 政策の評価には、それがもたらす効果と、実現させるための財源をどうするか、という視点が重要になる。AERA dot.が政府関係者から入手した政府内の政策評価の資料によると、公明党、立憲民主党の政策に対し、政府は一様に厳しい見方をしているようだ。

 まず公明党の「未来応援給付」(高校生以下に一律10万円相当の支援)については「なぜ高校生以下なのか理由に乏しい」「コロナ禍などで年収が減少し、生活が苦しい国民(所得制限)を対象にすべきではないか」「定額給付金の時にも問題になったように、最初に10万円が渡るのは親であることから、貯蓄に回され、消費喚起は極めて限定的であるなど、制度設計として未熟」「『選挙目当て』のバラマキ」という言葉が並ぶ。

 立憲民主党の政策についても「各種制度の無償化や所得制限撤廃など耳あたりのよい政策が並ぶが、恒久財源が必要となるこれらの政策への具体的な財源確保策は『優遇税制の廃止』など抽象論にとどまる」「旧民主党政権時代に『事業仕分け』等で血眼になって財源探しを行い、結局『消費増税』によらざるを得なかった経験を生かせず、再び同様の主張を繰り返すことへの責任感のなさ、見通しの甘さを露呈」とみる。

 岡さんはこう語る。

「公明党も野党も『子ども関係には配るぞ』といった姿勢で、バラマキ的な要素が強い。財源を考えるとやりすぎなのではないか、と思います。旧民主党時代では子ども手当を目玉政策として掲げたにもかかわらず、財源が確保できず頓挫した経緯がある。“悪夢の子ども手当”を思い起こさせ、大きな不安があります」

 末冨教授は、「臨時給付金は景気対策で、子育て政策とは別」とした上で、教育の無償化など恒久的な財源についての検討の必要性を訴える。

「やるべき政策をまとめると、予算は単年度4~7兆円程度が必要になります。この財源は、金融所得課税の見直しや教育目的の国債である教育国債、厚生年金や国民年金の保険料に上乗せして徴収するこども保険の創設などが考えられる。今後、国会でも財源をどうするか早期に着実に議論されるべきです。これだけ充実した政策を各党が出しているので、岸田首相も応える必要があるでしょう」

 次に、大学など高等教育に関する課題について、各党はどのように考えているのか。

 大きな課題は、学費の問題だ。私大だけではなく、国立大でも授業料を値上げする傾向が続いている。さらに多額の奨学金や教育ローンを必要とする世帯は多く、進学を諦めるケースや、進学しても卒業後に返済に苦しみ、人生設計に悪影響が出ているケースもある。

 自民党の公約には、こうした課題についても目立った言及がなかった。これはどう見るべきか。

「自民党の教育に関する公約を見ると、『10兆円規模の大学ファンドを実現』などと書かれている。大学を強く意識しており、大学生にまで目を配っていない様子が伺えます」(岡さん)

 さらに岡さんは、自民党のホームページ(HP)にも、党の意識の「ズレ」がみえるという。党のHPには「やさしい政策シリーズ」のタイトルで、党が注力する、子どもなどに関連した政策を紹介するページがある。

「このページでは『ダイヤル189』(児童相談所虐待対応ダイヤル)や『学校施設の耐震化』が紹介されています。いずれも大切な政策ですが、以前から取り組まれていることで、いま訴えることはそれなのかと、強い疑問が生じる。子どもに寄り添っていることを宣伝したいのでしょうが、逆に課題認識の甘さを表しています」

 他方で、公明党や野党の公約には、授業料の無償化や返済不要の奨学金の拡充などの施策が並ぶ。

 末冨教授は「学生に一番優しいのは共産の政策。日本では奨学金の返済を減免する仕組みについて議論が少ないが、様々な条件を考えるきっかけを与えている」と評価する。例えば、「大学・短大・専門学校の学費を半分にし、無償化を目指す。給付奨学金を充実させ、入学金制度を廃止」「『自宅4万円、自宅外8万円』の給付奨学金を75万人が利用できる制度をつくる。全ての奨学金を無利子に。奨学金返済が困難になった場合の減免制度をつくる」などだ。

 どの政党が課題解決に取り組んでくれそうか。そしてそれらの政策に実現性はあるのか。よく吟味して投票したい。



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