AIが虐待記録を学習、子どもへのリスク予測…児相職員の「一時保護」判断サポート





読売新聞オンライン
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 虐待が疑われる子どもを一時保護すべきか判断する際に、人工知能(AI)を活用する動きが全国の自治体で始まっている。過去に起きた虐待の記録をAIに学習させ、リスクを予測させる仕組みだ。児童虐待と向き合う現場ではベテラン職員の不足が指摘されており、人間の判断をサポートする役割が期待されている。

 江戸川区児童相談所(東京)は、来年1月以降にAIを活用したシステムを試行する。虐待や非行など区内であった2万件分の記録を学習したAIに、家庭の状況や傷の有無、面談結果など職員が作成した記録を読み込ませると、類似事例や、過去にどれくらいの割合で一時保護の対象になったかを示す「一時保護率」が表示される仕組みだ。

 昨年4月に開設されたばかりの同児相は、虐待対応にあたる児童福祉司45人(10月末現在)のうち、児相での経験年数5年以内が9割以上を占める。昨年度に行った一時保護の決定は延べ343件。子どもの命に関わる決断を下す会議では、判断が職員の経験や考えに左右されることもある。

 同児相の上坂かおり・援助課長は、「最終的な判断や責任は人間にあるが、AIは膨大な過去の記録に精通した『もう一人のベテラン職員』として強い味方になる」と期待する。


児相や自治体が虐待リスクを十分把握せず、一時保護など踏み込んだ措置が取られないまま子どもが命を落とす事件は繰り返されてきた。国は児童福祉司の大幅な増員計画を進めているが、全国的に経験の浅い児童福祉司が増加し、ベテランの確保が課題となっている。厚生労働省によると、今年4月時点で5年未満は約68%を占める。同省もAIを児童虐待防止に活用する方針で、全国共通のシステムについて2024年度の運用開始を目指す。

 一方、日々の虐待に向き合う現場では国に先行して活用が広がる。三重県は昨年7月以降、全児相と児童相談センターに125台のタブレット端末を配備。1万件の記録を学習したAIが一時保護率や再発率の傾向を算出する。広島県は虐待の「兆候」の探知にAIの活用を模索する。モデル市町で児童扶養手当や生活保護の受給状況、学校の出欠などの情報に基づきAIが虐待リスクを予測し、高リスクとされた子どもの家庭を市町職員などが訪問して支援を行う計画だ。

 AIの分野は開発途上にある。東京都練馬区は今年度の導入を見送った。4000件の記録を学習させたAIを使い、1万~0点でリスク予測するシステムの実証実験を行ったが、区によると、同区が試用したシステムでは、虐待の予兆を発見する機能を望む現場の声に対応できなかったという。

 産業技術総合研究所人工知能研究センターの高岡昂太・主任研究員の話「職員個人の経験や感覚だけでなくAIを活用することでよりデータを参照しながら子どもの安全を守れるようになる。ただ、児相の仕事は、親が真実を話さなかったり、子どもが幼くて事実を話せなかったりと対応が難しい。最終的な判断は人間の仕事であり、職員の教育や研修は今後も重要になる」

 ◆一時保護=児童福祉法に基づき、虐待などが疑われる子どもを家庭から引き離す措置。子どもの安全を迅速に確保し、心身の状況や家庭環境などを把握するために行われるが、保護者が児童相談所に反発するケースも少なくない。厚生労働省は今月、保護者が反対しているなどの場合に、児相の請求で裁判所が一時保護状(仮称)を発行する仕組みを導入する方針を発表した。


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