からだ中で自然と触れ合う子どもたち
森のようちえんとは、自然体験活動を基軸にした子育て・保育、乳児・幼少期教育とされ、2008年に設立された全国ネットワークには、現在、個人、団体あわせて約300の会員が登録している。
子どもの教育のために森のようちえんに通わせたいと地方に移住したり、考えの似た保護者が集まり、自分たちでようちえんを作ってしまったケースもある。
本書はそのなかから三重県、岐阜県、鳥取県、東京都日野市など、11の森のようちえんを取り上げ、経営者の言葉とともに、日々の子どもたちの様子を描いたルポルタージュだ(※本書より注記/法的に定められた「幼稚園」とは異なる)。
園舎はなく毎日山や川に遊びに出かけるというところもあれば、園舎と自然を融合したところや、週に1度、月に1度など定期的に「森のようちえん」を開くというパターンもあるが、どの章を読んでも、文字通り、溢れんばかりの子どもたちのエネルギーがぶわーっと飛び出してくるようだ。
目をきらきら輝かせて里山に飛び出し、木の棒をぎゅっと握って探検に出かけ、からだ中で自然と触れ合う。やりたいことに挑戦し、頭からつま先までどろんこになるのが、ここではあたりまえなのだ。
別の保育園や幼稚園から転園してきた子も、早ければ1週間、遅くても1か月のうちにはぐんぐん変わるという。冒頭に出てくる「子どもには育つ力がもともと備わっているから」というスタッフの言葉が、読み進めていくうち、何度も頭の中にこだました。
自己肯定感が高まるなんて思わないで
11のようちえんの11の経営者たちの言葉は、「子どもにいいことをしなくては」と、知らず知らずのうちに凝り固まった親の脳みそを、ゴリゴリともみほぐしてくれる。
モンテッソーリやイエナプラン、レッジョ・エミリアなど、海外の幼児教育を取り入れているところもあるが、そのうえで、日本でできることは何か、子どもの成長に必要な体験はどんなことかと考え、保育や教育への熱意と経験から学んだ哲学を込めて、森のようちえんを運営している。
「森のようちえんに入れれば、自己肯定感が高まるなんて思わないでください」
という言葉には、ガツンと殴られた気持ちになった。
生まれたときは「元気でいてくれさえすれば」なんて言っていたのに、大きくなっていくにつれ、できたらこうなってほしい、という欲望が芽生え、気が付くと、周りの子どもと自然に比較し、自己肯定感、非認知能力などというキーワードに振り回されている。そんな保護者も少なくないのではないか。もちろん私もそのひとりだ。
本書を読んでいるうちに、自然とまたその発想に転げ落ち「森のようちえんに入れたら……」と妄想しはじめたあたりで、ガツンとやられるのだ。なんだか気持ちがいいほどに。
子どもと自然をつなげるということ
森のようちえんがいいと思っても、都心に住んでいたらなかなか通わせられないのもまた現実だろう。
最終章では「都市部でもできる森のようちえん」として、神奈川県横浜市にある森のようちえんを紹介している。遊歩道を活用して散歩に出かけ、ちょっと足を延ばして海で遊ぶ。
自然が少ない都市部だからこそ、子どもと自然をつなげる意味があるというのが、理事長の考えだ。
「楽しい!」と伝えてくる子どもたちの笑顔は、エネルギーの塊だ。
「これは危ない」「ケガしないで」と、小さい箱にとじこめているのは、親の側なのかもしれない。そこから子どもを解放するために、自分に何ができるだろう?
頭でっかちになりがちな忙しい日々の中で立ち止まり、改めてじっくり考えてみたいと思わせてくれる本だ。
【Profile】
幸脇 啓子
1978年東京生まれ。編集者。東京大学文学部卒業後、文藝春秋で『Sports Graphic Number』などを経て、『文藝春秋』で編集次長を務める。2017年、独立。スポーツや文化、経済の取材を重ね、ノンフィクション作品に魅了される。
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