病院内保育所の待遇改善へ 現場で働く保育士が意見交わす



NHKニュース様 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220604/k10013658111000.html
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医師や看護師などの子どもを預かる「病院内保育所」で働く保育士が参加したパネルディスカッションが都内で開かれ、待遇の改善を求める声が相次ぎました。
「病院内保育所」は医師や看護師などが子どもを預けられるように医療機関が設置した保育所で厚生労働省が2020年に行った調査では全国におよそ3600か所あります。

東京・豊島区で開かれたパネルディスカッションにはリモートを含めておよそ110人が参加し、病院内保育所で正規職員として働く4人の保育士が意見を交わしました。

このうち、和歌山県の病院内保育所で働く20代の保育士は「医療従事者を支えるやりがいはありますが、待遇は低いと感じています。保育士としての仕事をきちんと評価して待遇を改善してほしい」と話しました。

労働組合の「日本医労連」が去年、157の病院内保育所から回答を得た調査によりますと保育士の初任給は月額平均で17万288円でした。

厚生労働省が2020年に行った調査では20歳から24歳の保育士の月の所定内給与は平均20万9900円で、労働組合は「病院内保育所」で働く保育士の賃金は保育士全体と比較して低い傾向にあると指摘しています。

パネルディスカッションを主催した労働組合、「全医労」によりますと「病院内保育所」は看護師などの利用を優先するため自治体から認可を受けられず補助金の対象にならなかったり利用料の引き上げが難しかったりするケースが多いということです。

このため待遇改善に向けた取り組みを引き続き、進めていきたいとしています。

認可保育所とは

「認可保育所」は児童福祉法に基づき保育の質を確保するために設けられています。

国が設けた子どもの年齢に応じて
▽配置する職員の数や、
▽保育施設の面積などについての、
設置基準をもとに都道府県などが条例で基準を定めます。

「認可保育所」では保護者などからの利用の申し込みを受けて、自治体が実際にどこの保育所を利用するのかを決めます。

また、「認可保育所」の中には、企業が施設内に設置する「事業所内保育所」もあり、認可を受けるためにはその企業で働く人の子どもだけでなく地域で暮らす子どもも一部受け入れる必要があります。

厚生労働省によりますと、都道府県などから認可を受けると施設の運営費について国や自治体から補助を受けることができますが、認可を受けていない施設は対象にはならないということです。

また、政府は仕事と子育ての両立や、待機児童の解消のために2016年から「企業主導型保育所」を導入しました。「企業主導型保育所」は企業が国から施設の整備費などの助成を受けて設置するもので従業員の子どもだけでなく地域で暮らす子どもも入所できます。

この制度に基づいて設置された施設は認可外となりますが、保育士の数や設備などが一定の基準を満たすと国から保育士の処遇改善などのための助成金が出されます。

2016年より前に設置されている保育施設が「企業主導型保育所」となるためには子どもを受け入れる定員を増やすなどの対応が必要となります。

和歌山県の病院内保育所のケースは

和歌山県内の基幹病院が1992年に設置した「病院内保育所」は病院で働く医師や看護師などが仕事と子育てを両立できるように設けられています。

この保育所の定員は30人で現在、医師や看護師などの子ども28人を受け入れています。保育所で働く保育士は9人で8人が正規職員で1人が非正規職員です。このほかにパートの保育助手が2人働いています。

保育所は病院の勤務開始にあわせて午前7時半に開園し、午後6時まで子どもを預かります。ただ、救急外来などに勤務する医師や看護師は急患などの対応で残業せざるをえない日も少なくなく、保育所では基本的には迎えが来るまで子どもを預かるといいます。医師や看護師が職場に復帰した時期から子どもを預かることができるように、定員に空きをつくるなどの対応をしています。
4歳の子どもを預けている看護師は「臨機応変に子どもを預かってもらえるので、この保育所がなければ今のようには働けないです。外来は人手不足なのでこの保育所がないと働くことができなくなる人も出て、病院の運営に支障が出る可能性もあると思います」と話していました。

1歳の息子を預けている看護師は「保育所に入れたいタイミングで受け入れてもらえたので助かりました。医療従事者が働く環境を理解してくれているので安心できます」と話していました。この保育所は病院から委託を受けた会社が運営しています。自治体から認可を受けるためには地域の子どもを7人以上受け入れる必要があります。しかし、病院の医師や看護師の子どもを優先的に預けることが難しくなるため認可を受けることができないといいます。

このため、認可保育所であれば受けられる国や自治体からの補助金がないためこの保育所で働く保育士の月の賃金は手取りで平均およそ18万円だといいます。

また、新型コロナの影響で医師や看護師を支える病院内保育所の役割は大きくなっているといいます。この病院は地域医療を支えていて新型コロナに感染し重症化した患者を受け入れています。

この病院内保育所では、保育所で感染が発生すれば医療従事者への感染につながり病院の運営に支障が出てしまうおそれがあるとして消毒作業を徹底するだけでなく保育士が不要な外出を控えるなどの対策を続けてきたといいます。
園長は「低い待遇のままだと働いてくれる保育士が今後確保できなくなり、この保育所の運営が難しくなってしまうのでは病院内保育所が医療現場で働く人を支えそのことが地域医療を守ることにつながっているということを知ってほしいです」と話していました。

この保育所を運営する会社は「保育士に資格手当や単身者向けの住宅手当を出すなどできるだけ処遇改善を進めています。しかし、保育士の処遇改善のために利用できる国からの補助金は認可保育所を対象にしたものがほとんどで、認可を受けていないと全体の支給額の引き上げは難しいのが現状です」としています。
この「病院内保育所」が開設されてから正規職員の保育士として働き続けている61歳の女性です。女性は現在は自営業の夫と2人暮らしです。共働きで3人の子どもを育ててきました。

病院内保育所で働くことは住民の命や暮らしを守る地域医療を支えることにつながっているとやりがいを感じています。

一方で、別の保育所と同じように働く保育士と比べて月給が低いことなどに疑問を感じることもあるといいます。
女性は平日の週5日、1日8時間のフルタイムで働いていて1か月の基本給はおよそ23万8000円です。手取りはおよそ19万円で勤務年数が増え経験を積んでも賃金は変わらない状態が続いています。

厚生労働省が2020年に行った調査では、60歳から64歳の保育士の1か月の所定内給与は平均で26万4300円となっています。

女性は「この保育所があるから医師も看護師も安心して働くことができると思いますし地域医療を支えている保育所だと感じています」と話しています。

また、この保育所で30年間働き続けていますが、いつまで働くことができるのか不安だと話します。それは、病院から委託を受ける運営会社を決めるために数年ごとに入札が行われるため、運営会社が変わった場合にそのまま働き続けることができるのかがわからないからだといいます。

これまで運営会社は3回変わったということです。また政府は新型コロナ対応の最前線の看護や介護、保育の現場で働く人たちの収入を引き上げるための対策を打ち出しました。

女性は「病院内保育所」で働く自分も支援を受けることができると期待しましたが、認可外を理由にその対象にならなかったということで「残念だった」と話します。

女性は「保育所が認可を受けていなくても認可保育所の保育士と同じように責任を持って働いている。社会を支えているということをもう少し知ってほしいと思います」と話していました。

医療従事者の不規則な勤務にあわせた保育の実態明らかに

労働組合の「日本医労連」=日本医療労働組合連合会は毎年、「病院内保育所」の実態調査を行っていて去年の調査では全国の157の「病院内保育所」から回答がありました。

それによりますと都道府県などから認可を受けていない施設は144施設でした。また、施設の運営を医療機関が直接するのではなく委託された企業が行っているのは42.7%で前の年より6%余り増えました。

閉園後の「延長保育」は82.2%の施設で行っていると回答しました。このうちおよそ6割が「迎えがあるまで延長保育を行っている」としていて、労働組合は医療従事者の不規則な勤務にあわせて保育が行われていると指摘しています。

また新型コロナの影響でどのようなことが起きたか聞いたところ、
▽「事務負担の増加」が45.9%、
▽「残業の増加」が7などとなりました。

専門家「実態に即した補助や保育士の処遇改善を」

「病院内保育所」の調査や研究を行っている東京未来大学の西村実穂講師は「医療従事者のニーズにあわせた保育を行っていて夜間保育や休日保育、それに育児休業からいつでも復帰できるように随時、入所を認めていて、女性の多い医療現場で職場復帰の足がかりになっている」と話しています。

そのうえで、「医療従事者のニーズを最優先にして、夜間保育や24時間保育というような柔軟性をもった保育体制を提供しようとすると、認可を受けるための条件をクリアできずにどうしても認可外での運営を選択せざるをえない。病院内保育所は医療従事者の確保や病床をしっかりあけるための人員確保につながっている。しかし、処遇改善が課題となっている保育業界全体でみても病院内保育所は、それよりもさらに一段、処遇が低くなっている」と
現状の問題点を指摘しています。

また西村講師は、「このままでは保育の質が下がって、この保育所を利用する医療従事者が減ってしまい設置の目的もあいまいになって、結果として、その病院で働く医療従事者を確保できないことにつながってしまう可能性もある。病院内保育所の実態にそくした柔軟な補助制度や働く保育士の処遇の改善が必要です」と話しています。現場の保育士はやりがい感じるも…



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