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YAHOO!ニュース様
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小学校の前で、校門が開くのを待つ子どもたちが議論を呼んでいます。そんな中、神奈川県大磯町では6年前から、「朝の子どもの居場所づくり事業」を展開しています。子どもたちは登校開始時間までの間、隣接する学童保育の施設で自由に過ごしながら、学校が始まるのを待っています。朝の子どもの居場所は、どうあるべきなのでしょうか。
6月中旬の午前7時半すぎ、大磯町立国府小学校の隣にある国府学童保育所には、10人の子どもの姿があった。子どもたちはスタッフと一緒に太極拳をしたり、ボードゲームを出して遊んだり。一角には本やマンガ雑誌も置いてあり、一心不乱に読む男の子もいた。 同級生とシルバニアファミリーで遊んでいた小学1年の女の子は、両親がカメラマンとして働く。「いろんなところに撮影に行くから、忙しいの。動画も撮るんだよ」と言いながら、両親の仕事について嬉しそうに話した。 隣の机でレゴブロックを出して遊んでいた小学3年の男の子は、「お父さんは仕事場が遠くて、お母さんは病院で働いていて、朝は早いんだ」と記者に説明してくれた。「ここではたくさん遊べるから嬉しい。学校に行くより、このまま遊んでいたい!」 午前8時10分、スタッフが子どもたちに呼びかけた。 「学校に行く時間ですよ」 子どもたちが片付けを始め、手を洗ったり、帽子を探したり。「いってらっしゃい」の声を背に建物の外で列を作った子どもたちは、大きな声で「行ってきます」と言って、学校に向かって歩き出した。
「子どもが1人にならずにすむ」
大磯町では2016年1月から、町立2小学校で、「朝の子どもの居場所」事業を展開する。土日祝日や長期休みを除き、学校がある日の午前7時15分から登校開始時間まで、学童保育所で実施する。国府学童保育所は、社会福祉法人が運営を委託されており、「朝の子どもの居場所」事業もその社福法人がにない、学童指導員らが見守りスタッフを務める。 町立小学校に通う児童であれば、親の就労状況にかかわらず利用できる。登録保険料として児童1人あたり300円が必要だが、利用料はなし。町が年約300万円の予算をつける。 町によると、利用する子どもは大磯小で1日平均19人、国府小で同8人。21年度は、延べ人数で、大磯小で2047人、国府小で1284人が利用した。保護者からは「仕事の出勤が早く、子どもが自宅で1人にならずにすむので安心」といった声が寄せられているという。 「朝の子どもの居場所」事業のきっかけは、神奈川県が若手職員の提案事業の一つとして始めたモデル事業だ。15年度に大磯町と海老名市で行った。利用した保護者71人に聞いたところ、朝の居場所が「必要」と答えたのは70.4%。朝の居場所事業に期待することとして、「出勤時間に合わせた預かり時間の延長」が26.0%、「急な利用時にも対応してもらえる体制」が30.7%で、自由記述欄には「土日や長期休業中も実施してほしい」といった声があった。 大磯町子育て支援課の栁田美千代課長によると、町内の小学校では2、3人の児童が開門を待っている姿があったという。栁田課長は「連れてくる時に、見守りスタッフと言葉を交わせるなど、保護者にとっては地域とのつながりが得られる場にもなっている。地域の協力なしには成立しない事業です」
かつて学校の門は開かれ、校庭は開放され、朝や放課後に子どもたちが遊ぶ姿は日常風景だった。しかし、多くの小学校では現在、開門時間が決められている。都内のある小学校は、午前8時から20分間を登校時間とし、その前後は閉門。次に門が開くのは下校時刻だ。 こうした結果、保護者の出勤時間が登校時間よりも早い家庭の子どもの中には、保護者と一緒に家を出て、小学校前で待つケースが出るようになった。小学2年の子どもがいる東京都青梅市の会社員の女性は「保育園は朝7時から開いていたので、何とかなった。小学校に入ってから本当に困った」と話す。現在は始業時間を遅らせて働いている。 なぜ開門時間が制限されるようになったのか。 2001年度から都内の小学校で働く女性教員は、二つの要因があると考える。 一つは、01年6月に大阪教育大付属池田小学校で児童8人が殺害され、児童13人と教諭2人が重軽傷を負った事件。「学校の安全という面から、門を閉める文化が広がったと感じる」。昨春、国立教育政策研究所がまとめた「児童生徒の安全・安心と学校空間に関する調査研究」の報告書でも「事件以後、全国の学校では門は閉めるようになった」とある。 二つ目は、教員の働き方改革だ。文部科学省の調査では、小学校の3割、中学校の6割の教員が過労死ラインとされる月80時間以上の残業をしている実態が明らかになっている。学校や教員が担う仕事の仕分けが求められ、登下校に対する対応などは、基本的には学校以外が担うものとされてきている。 この教員が都内の小学校で副校長を務めていた数年前、門の前で待つ子どもたちがじゃれあった結果、1人が花壇の角に頭をぶつけてけがをすることがあった。教員は「校門の前で待つ子どもがいることをいいことだとは思っていない。安全と働き方の間で引き裂かれる思い。朝に学童のような場所があればいいと常々思っていた」と話す。 保護者から「朝早く開けてほしい」と求められることもあるといい、「教員の始業は午前8時10分だが、8時には門を開けていた。この10分間が怖かった。子どもに何かあった場合、いったい責任はどこにあるのかと思い、ひやひやしていた」
福岡県で一昨年度まで小学校教員をしていた男性も「朝の子どもの居場所は大事な視点だ」と話す。保護者が朝早く家を出てしまい、自宅で1人で登校を待つ子どもの中には二度寝してしまったり、ゲームを始めたりして遅刻するケースや、連絡が取れず安否確認を迫られるケースがあったという。 保護者の了解を得た上で、一時期は呼び鈴を鳴らして子どもに登校を促すこともあった。「『子どものため』と思うと際限がなくなる。自分がやってきたことを、多忙を極める今の先生たちに求めることはできない。そもそもそれは教師の仕事なのだろうかとも思う」 NPO法人日本こどもの安全教育総合研究所(東京)の宮田美恵子代表は「朝、多くの子が門の前で待っている状態は、安全性が中ぶらりんの状態。子どもが、悪意ある人のターゲットになってしまうことも考えられる。一方で、家に1人でいれば、鍵をちゃんとかけたかどうかなど、いろいろと心配なことが出てくる」と話す。その上で、「社会全体が、先生だけでなく、大人の働き方全体を考えないといけないのでは? 門の前で待つ子どもの姿は、社会のしわ寄せが子どもにいっている証左だ」と指摘する。
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