(社説)待機児童対策 「量」から「質」へ転換を



朝日新聞DIGITAL
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希望しても保育所などに入れない待機児童の問題で、地域ごとの課題の違いが際だってきた。政府は従来、受け皿の量的な拡大にもっぱら力を入れてきたが、今後は、より丁寧な要望の把握を進め、質の向上に軸足を移す必要がある。

 厚生労働省によると、今年4月時点の待機児童は全国で2944人だった。統計のある1994年以降で最少で、最多だった2017年(約2・6万人)の約9分の1まで減った。

 自治体へのアンケートによると、主な要因は、「受け皿の拡大」(66%)と「申込者数が想定を下回った」(35%)ことだという。少子化で子どもが減ったことや、新型コロナによる利用控えが影響したようだ。

 ただ、女性の就業率が上昇傾向にあることなどもあり、利用申し込みは再び増える可能性があると厚労省は指摘している。動向の注視が必要だ。

 特定の園を希望しているといった理由で計上されない「隠れ待機児童」も、なお6万人以上いる。相談員の活用や、駅前などに送迎拠点を設けて送迎するといった工夫により、需給のすれ違いを減らす取り組みも引き続き重要だ。

 一方で、少子化は想定を上回るペースで進んでおり、保育所の定員に対し、利用する児童数の割合が減ってきているのは事実だ。将来の人口減を見据えた保育所などのあり方をめぐる議論も活発になるだろう。

 ただ、少子化に歯止めをかけるための子育て支援策が、少子化を理由に先細っては、悪循環に陥るばかりだ。地域には支援を必要とする人がおり、今の制度で対応できていない課題があることも忘れてはならない。

 例えば、保育所を利用していない家庭にも、子育てで悩み、孤立している人はいる。

 新設されるこども家庭庁の来年度予算概算要求には、空き定員を活用して未就園児を定期的に預かるモデル事業の費用が計上された。親の就労状況にかかわらず、サービスを必要とする人が柔軟に使える仕組みを作り、多様なニーズに対応できる制度設計の議論を深める契機にしたい。

 保育所の担い手の待遇改善も急務だ。保育所などで子どもがけがなどをする事故が昨年、これまでで過去最多になった。背景に、現場の慢性的な人手不足があるとの指摘もある。離職の理由で多いのは賃金の低さと並んで仕事量の多さでもある。

 岸田政権は賃金の3%(月約9千円)引き上げを進めているが、不十分だ。現場の負担を減らすための保育士の配置基準見直しにも、早急に取り組む必要がある。




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