<NEWS EYE>幼児教育維持 市の思惑


讀賣新聞オンライン様


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宇治市立幼稚園 1園に統廃合

 宇治市内に三つある市立幼稚園が2025年度、1園に統廃合される。園児数は近年、定員の2~3割台で推移していることから苦渋の判断となった。園児の夏休みがなく長時間預けられる保育所やこども園の需要は多いが、市は幼児教育に特化した幼稚園は残しておきたい思惑がある。一方で、需要が低下する幼稚園を続ける姿勢に批判的な研究者もいる。(坂木二郎)

■保育所に需要偏り

 19日午前、宇治市立東宇治幼稚園。年長の園児約20人は、園庭でリレーを楽しんでいた。グループ分けや順番について「どうすればいい?」という教諭の問いに、園児たちは話し合いやじゃんけんで自主的に決めた。自分たちで並べたコーンに沿って走る姿を見ながら、篠原真奈美園長(57)は「遊びを通して周囲と関わり、数の認識もできるようになるんです」と話した。

 市内には、東宇治のほか神明、木幡の市立幼稚園がある。1980年代まで8園体制だったが女性の社会進出が進んで保育所に需要が偏り、2020年度から3園体制になった。定員計350人のところ、今年4月現在の園児は75人(21・4%)。私立の9幼稚園の定員充足率(平均5割程度)より低く、3歳から入園できる「3年保育」や、教育時間(4時間)を超えて子どもを預かる「預かり保育」の導入が遅れたことが響いた。

■検討委発足

 今年度、市は有識者や保護者らによる検討委員会を発足させた。会議を重ね、8月に市立幼稚園の現状について「園児数は著しく減少し、集団教育上の課題が生じている」と指摘。幼児教育の基本となる公立幼稚園機能は残しつつ、教育と保育を一体的に行う認定こども園化も視野に適正規模を維持するよう求めた。

 これを受け、市教育委員会は幼稚園の削減に踏み切った。25年度に3園を統廃合し、東宇治幼稚園に開設される新たな幼稚園は定員100~120人を想定。預かり保育の拡充や給食開始、遠方からの通園のため駐車場の拡幅も視野に入れる。

 「公立幼稚園のいい面をもっとPRしてほしいのに、残念」と語るのは保護者の西川玲子さん(40)だ。双子を東宇治幼稚園の年長組に預け、検討委員会にも身を置いた。自身も同幼稚園出身で、遊びを通じて好奇心や思いやり、忍耐力を育む教育環境や、保護者同士の緊密な連携など幼稚園の長所を実感してきた。

■支援センター併設

 保護者らの要望もあり、新たな幼稚園は幼児教育のノウハウを蓄積し、研究する場としてこども園化は避けた。市内の待機児童が実質ゼロで保育需要も切迫しない中、市教委の担当者は「市全体の幼児教育のベースとして、私立幼稚園と連携していくためにも、市立幼稚園は必要だ」と力を込める。こども園になり預かり時間が増えた場合、教諭らがこれまで通り研修や次の日の準備に時間を割けるのかも疑問が残るという。

 統廃合と同時期、市は東宇治幼稚園に併設する形で「乳幼児教育・保育支援センター」を設ける。幼稚園と保育所、こども園で幼児教育の課題を共有し、研究や研修も一緒に行いながら、小学校での教育につなげる。「市立が1園になることで子育て世帯が不便を来さないよう、私立幼稚園も支援していく」としている。

「担い手こども園に」声も

 府全体でも、幼稚園の園児数は減少している。府の統計によると、在園児は今年5月時点で194園に1万9082人で、18年連続で減った。逆に幼児教育を受けながら長時間預けられる幼保連携型の認定こども園は、138園に1万7801人が在籍。府内にできた2015年度以降、園数、園児数共に増加を続ける。

 関西大の山縣文治教授(子ども家庭福祉)の研究によると、全国の市区町村のうち、幼稚園が全くない自治体は3割。1園しかないところを入れるとその数は約半数に達するといい、「幼児教育の担い手は幼保連携型のこども園に移りつつある」とする。

 その上で「自治体は『公立幼稚園を通じて幼児教育をリードする』という従来の考えを改め、公立保育所と一緒にこども園として存続を図るべきだ。教育の研究や実践はそこでも継続できるはずで、全ての子育て世帯や納税者の視線をもっと意識する必要があるのではないか」と指摘している。


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