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わたしのビタミン
社会保障に関わる人に、大切にしている思いや経験を語ってもらいます。その人を力づけ、周りにも元気を与える。そんなビタミンのような話を聞いていきます。
社会保障に関わる人に、大切にしている思いや経験を語ってもらいます。その人を力づけ、周りにも元気を与える。そんなビタミンのような話を聞いていきます。
栃木県足利市の認可保育園「小俣幼児生活団」で主任保育士をしています。 自分の子育てが落ち着いた30代半ばに、嫁ぎ先のおしゅうとめさんが始めた園で保育士として本格的に働き始めました。それから60年。3000人近い子どもをみてきました。大きくなって、訪ねてくれるのがうれしい。いい思い出が残っているんだろうな、って。
子どもは体が小さいだけで、大人と対等な存在だと心に留めています。だから、「お片付けして!」なんて命令口調は使いません。何か行動してほしい時は、「してくれませんか?」とお願いします。「偉い」や「すごい」という言葉も使いません。上から評価するのでなく、「先生はとてもうれしいよ」と伝えます。 園では、「自由に生きる力」を育てたいと思っています。やりたいことを自分で決め、満足するまで没頭させる。その経験をたくさん積むことが、大人になって、本当にやりたいことを見つけた時の力になると信じています。押しつけをせず、選択肢をたくさん示すことが私たちの役割です。 「こういう子どもになってほしい」という理想像やイメージは持たないようにしています。同じ3歳児でも、4歳ぐらいの発達段階にある子もいれば、そうでない子もいる。登る道は同じでも、スピードが速い子もいれば遅い子もいます。一人ひとりのいいところを見つけ、その子がなりたい大人になれるよう、いい道を選べるよう、お手伝いしたいと考えています。
40代半ばに出会った自閉症の男の子が印象に残っています。病院の先生に「お母さんが楽になる時間を作るために預かって」と頼まれました。その頃、自閉症の子どもの保育は手探り。お昼寝の時間、急に起きて外まで行っちゃうので、よく追いかけました。その子のことになると目の色が変わる、と言われたほどです。 私が88歳になった時のお祝いに、その子が来てくれました。トラックの運転手になり、家を建てたと聞きました。お母さんはうれしかっただろうなって……。 「名もない草も実をつける いのちいっぱいに自分の花を咲かせて」。相田みつをさんの好きな詩です。 この仕事を続けられていることが、私の生きがいです。ふだんは、同僚の保育士が書く日誌にコメントを付けるなどしていますが、毎週木曜は年長クラスの活動を担当し、リトミックでピアノを弾いたり、昔話を聞かせたりしています。 週1回の職員ミーティングにも出席します。子どもや保育士が帰り、誰も残っていないのを確認して、夜の8時頃、(次男の)園長と帰宅するのが日課です。 やっぱり子どもはかわいい。これからも、一生懸命やりたいと思っています。(聞き手・小池勇喜)
1927年、東京都生まれ。東京女子大中退。保育士として働くほか、足利市教育委員などを歴任。著書に「92歳の現役保育士が伝えたい親子で幸せになる子育て」(実務教育出版)。
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