保育士不足どう解消?…「誰でも通園」導入で現場の負担増える恐れも



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保育士不足の解決に向け、各地の自治体などが、学生や復職を検討する「予備軍」を対象に、保育施設の見学ツアーを開いている。職場環境の改善に向けた取り組みをPRし、人材確保につなげるのが狙いだ。手当などを補助する自治体もあるなか、専門家は、保育士が離職せずに長く働き続ける仕組みの導入を訴える。(小池勇喜)

ツアーで職場環境PR…専門学校生 早期確保も

自治体など主催

「1歳児クラスは11人で、4人の保育士が見ています」

 7月26日、群馬県高崎市城山町の「城山保育園」で、松本博幸園長が訪れた見学者7人に保育士の配置状況を説明した。国の現行基準だと、保育士1人が受け持つ子どもの数は1歳児で6人。ほぼ2倍の手厚い体制だ。

 見学したのは、専門学校生や、資格を持ちながら現場を離れている「潜在保育士」らで、松本園長の説明に大きくうなずいた。7人は園内で保育士たちが声を掛け合う様子や、作業スペースの広さなどの職場環境を確認した。

 ツアーは、同市の保育協議会が主催した。一行は朝9時前に市役所を出発し、半日で城山保育園と同市片岡町の「片岡中央保育園」の2園と、同市の子育て支援拠点「高崎市子育てなんでもセンター」(高崎市田町)を回った。同施設には、求人情報を検索したり、就労中の悩み相談を受けたりするコーナーがある。

 翌27日には、同様のツアーが茨城県つくば市でも行われた。「ハローワーク土浦」(茨城県土浦市)と、つくば市の共催で、ハローワークは同市など管内4市町それぞれと、協力してツアーや説明会を企画している。管内在住の8人が参加し、見学先の複数の保育園で「自分の子どもが体調不良になった時、急に休めますか」「正職員とパートで、責任に差はありますか」などと質問した。

 これに対し、保育園の担当者らが質問に丁寧に答えるとともに、自由な服装で働けるなどの職場環境についてPRした。

参加者が就業

こうしたツアーの狙いは、専門学生らの早期確保や、資格を持ちながら働いていない潜在保育士の掘り起こしだ。いずれも主催者側が広く該当者に参加を呼びかけ、実現している。

 高崎市でのツアーに参加した山下素江さん(43)(高崎市)は保育士資格があり、復職も念頭に見学した。「子どもの成長を見られるやりがいのある仕事だと改めて思った」と語った。つくば市でのツアー参加者は「他の人が自分にはない視点で質問をして参考になった」と述べた。

 高崎市保育協議会は今年度、さらに若い世代の人材を掘り起こすため、新たに高校生を対象にしたツアーを実施する。粕川泰彦会長は「やる気があり、仲間になってもらえる人を増やしたい」と語る。

 ハローワーク土浦によると、2017年度に始まった同ツアーでは、参加者が見学先に就職した例もある。管内での保育士の有効求人倍率(今年3月)は6・57倍。特につくば市は人口増で保育需要が高い。門井健太・統括職業指導官は「今後も求人と求職のマッチングにつなげたい」と強調した。

低収入 各地で人材不足…給与上乗せや家賃補助

 保育士不足は、各地で問題となっている。全国の保育士の有効求人倍率は22年で2・42倍。全職業(1・16倍)を上回る。低収入が主な原因とされ、厚生労働省によると、22年の保育士の平均月給は約26万7000円で、全産業平均よりも7万円以上低い。

 鹿児島市は、昨年4月1日時点の待機児童数が全国で最も多い136人だった。その要因の一つが保育士不足だった。同市によると、23年度の保育士などの採用(4月1日時点)について、市内の保育所が計267人募集していたところ、112人を確保できなかった。その数は22年度(同)の44人から増えた。結果的に定員通りの子どもを預かれなかった保育所もある。

 自治体はツアーだけではなく、給与に上乗せ分を支給する処遇改善なども行う。

 千葉県松戸市では、正規職員に月額4万5000円を支給。勤続12年目以降は年数に応じて金額が上がり、月額最大7万8000円を上乗せする。つくば市は月額3万円を支給し、家賃補助も行う。

 自治体によっては、保育士資格の取得費用を補助したり、保育士の子どもを優先的に保育所に預けられるようにしたりしている。

 一方、専門家は保育士が離職せずにやりがいを持って働く仕組みの導入を求めている。

 鶴見大短期大学部の天野珠路教授(保育学)は、政府が導入を検討する「こども誰でも通園制度(仮称)」によって、保育現場で新たな負担が生じる恐れを指摘する。天野教授は「人材確保を最優先に、目標を持って働き続けられるキャリアアップの仕組みや保育士の上級資格の創設が必要だ」と訴える。


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