「こども誰でも通園制度」の在り方に関する議論開始へ

NHK
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親が就労していなくても子どもを保育所などに預けられる「こども誰でも通園制度」について、来年度行う試験的な事業の在り方に関する議論が21日から始まります。保育現場では人手不足なども課題となるなか、実効性のある制度をどう作っていくのか注目されます。

「こども誰でも通園制度」は、保育所などの利用要件を緩和し親が就労していなくても時間単位などで子どもを預けられるようにするもので、政府は来年の通常国会に制度を創設するための法案を提出することを目指すとともに、本格的な実施に向けて来年度には試験的な事業を行う方針です。

これを前にこども家庭庁は課題などを整理するため保育所の事業者や幼児教育の専門家、自治体の代表らによる検討会を設置し、21日から議論を始める予定です。

具体的には
▽定期的に子どもを預けるなどの保護者の利用方法や
▽在園児と一緒に保育する場合や専用の部屋を用意する場合など実施方法について、それぞれの特徴や留意点などを議論し、12月をめどに意見をとりまとめる予定です。

そのうえで地域の実情に合わせて自治体や保育所などが試験的な事業の実施方法を選ぶことにしています。

「こども誰でも通園制度」は、ことし6月に閣議決定された「こども未来戦略方針」でも子育て世帯への支援を強化する新たな施策の1つと位置づけられ、未就園の子どもの成育環境の整備や親の育児負担の軽減などが期待される一方で、保育の現場では人手不足や業務負担の増加などが課題となっています。

また、来年度予算に向けたこの夏の概算要求では、今の時点で経費を見積もるのが難しいとして、具体的な金額を示さない「事項要求」となっていて、どこまでの規模で実施できるのか見通しが立っていません。

新たな制度の創設で現場の負担が大きくなるのではないかといった意見も出ていて、どのような制度にするのか今後の議論が注目されます。

「こども誰でも通園制度」とは

国が創設を目指す「こども誰でも通園制度」は、親が働いていることを原則とする今の保育所の制度に加えて、新たな利用可能枠を作り、親の就労を問わずに月一定時間、柔軟に子どもを預けられるようにしようというものです。

対象となるのは0歳から2歳までの子どもで、認可された保育園や認定こども園などに通ってない子どもの数は令和3年度、全体の6割にあたるおよそ146万人と推計されています。

新たな制度は、
▽子どもにとっては保育の専門職がいる環境で同世代と関わりながら成長する機会が得られるほか、
▽親にとっても理由を問わず誰でも利用できることから育児負担や孤立感の解消につなげることなどが期待されています。

ことし6月に閣議決定された「こども未来戦略方針」でも子育て世帯への支援を強化する新たな施策の1つと位置づけられました。

今年度は東京 文京区や中野区、栃木市、千葉県松戸市など北海道から九州地方まで全国各地の31自治体、あわせて50施設でモデル事業が進められています。

ただ、受け入れる側の保育現場では人手不足や業務負担の増加などが課題となっていて、こうした問題が改善されないまま新たな制度が始まることで、より現場の負担感が増すのではないかといった懸念も高まっています。

また、特に保育所などの定員や施設に空きがない都市部では、十分な受け皿を確保することが出来るのかも大きな課題です。

こうした中、来年度予算に向けたこの夏の概算要求では、今の時点で経費を見積もるのが難しいとして、具体的な金額を示さない「事項要求」となっていて、どこまでの規模で実施できるのか見通しが立っていません。

こども家庭庁は今後、本格実施を見据えた事業のあり方について検討を進めたうえで具体的な制度設計を行い、来年度からは各地で試験的な事業を行う方針です。

モデル事業実施の自治体

「こども誰でも通園制度」の本格実施に先駆けて、今年度、モデル事業を実施している自治体です。

▽北海道白老町
▽岩手県釜石市
▽岩手県盛岡市
▽仙台市
▽福島市
▽宇都宮市
▽栃木県栃木市
▽千葉県松戸市
▽東京 文京区
▽東京 品川区
▽東京 渋谷区
▽東京 中野区
▽東京 八王子市
▽横浜市
▽神奈川県川崎市
▽神奈川県秦野市
▽石川県七尾市
▽福井県敦賀市
▽福井県若狭町
▽岐阜県岐南町
▽静岡県島田市
▽名古屋市
▽愛知県大府市
▽滋賀県近江八幡市
▽滋賀県米原市
▽大阪府豊中市
▽大阪府高槻市
▽香川県多度津町
▽福岡市
▽佐賀県有田町
▽長崎県東彼杵町の31自治体、合わせて50施設で事業が進められています。

モデル事業を利用している親は

「こども誰でも通園制度」の本格実施に先駆けたモデル事業を利用している親からは「理由が無くても預けられることがうれしい」といった声が聞かれています。

栃木県栃木市で行われているモデル事業では、認定こども園が保育士2人を増員し、0歳から2歳の子どもを週に1日から2日程度預かります。

子どもを預かるのは平日の午前9時から午後3時までで、1日最大3人を預かっていて、保護者は育児の相談もでき、費用は無料です。

この日も3組の親子が訪れ、このうち、2歳の女の子は同い年の子どもたちと一緒に保育士から塗り絵を教わったり、砂場で遊んだりしました。

その間、母親は、施設に併設されたカフェで、保育士から園での子どもの様子を聞き、育児の悩みなどを保育士に相談したりしていました。

女の子の母親は「預けた日は精神的に楽になり、子どもに対して優しく接することができますし、育児の悩みについて、ベテランの保育士さんに相談できるのがすごくありがたいです。この制度は理由が無くても預けられるのがうれしいです」と話していました。

また、ダウン症の1歳の男の子を初めて預けに来た母親は「集団生活にちょっとずつでも慣れてもらいたくて利用しました。2人きりで向き合っているとどうしても息苦しさを感じてしまう時もあるが、実家も遠く、子どもを預けられる場所がなかなか無いので、無料で長い時間預かってもらえるのは本当にありがたいです」と話していました。

こども園によると、先月までの3か月間で述べ100人以上が利用していて、希望者が定員を超える日が多いということです。

「認定こども園さくら」の堀昌浩園長は「最初は暗い顔をしている親が制度を何回か利用するうちに笑顔で登園する様子も見られ、親の負担を軽くできていると感じています。子どもどうしのふれあいの中で子どもを育てたいという親のニーズに応えるためにも、今後も継続していきたい」と話していました。

園では現場の負担感解消が課題

「こども誰でも通園制度」の本格実施に先駆けて、モデル事業を行っている園では、現場の負担感をどう解消するかが課題になると指摘します。


モデル事業を行っている自治体のひとつ、東京・中野区の保育園は0歳から2歳の16人を預かることができる小規模保育の園ですが、空き定員がある0歳児の枠を利用して、区のモデル事業を受託し、ことし8月から0歳から1歳の子ども2人を週に2回定期的に預かっています。

19日午前9時すぎに訪れた1歳の女の子は、上の兄弟もいる中で母親はなかなか自分の時間をとれなかったといい、女の子は午前中いっぱい園内でほかの子どもと一緒に過ごしました。

ただ、母親と離れることにまだ慣れないため、預けられると泣き出してしまい、ベテランの主任保育士がだっこであやします。

また、すぐにみんなと一緒に遊ぶことができず、保育士が「泣いてもいいよ、大丈夫だよ」などと声をかけながらつきっきりでだっこし、少しずつ慣らしていました。

このため、0歳児を担当するこの保育士が女の子にかかりきりになっている間、他の2人の保育士が、1、2歳児と合わせて0歳児も一緒に見守っていました。

モデル事業での預かりは通常の通園と違って週に2回しか来ないため、慣れるのに時間がかかるといいます。

主任保育士の市村彩さんは「慣れないことを想定して始めた事業ではありますが、毎日来る子どもと比べると継続した保育が難しく、予想以上に慣れないということがあります。その子の興味に保育士側が合わせて遊びなどを考えながら対応しています」と話していました。


また、この園ではもともと、園が費用負担し国や自治体の配置基準より多く保育士を雇用し、ゆとりをもった人員配置をしていますが、新たなモデル事業の対応で現場の負担感は増えているといいます。

さらに通常は子ども1人につき算定される保育士の処遇改善などの加算もつかないこともモデル事業の課題だとしています。

ゆめのいろ保育園中野の米田恵園長は「育児負担を軽減することで虐待などを予防したいと思い、働いていなくても子どもを預けられるというこの制度の理念に共感して、モデル事業に応募しました。しかし、先立つものがないと、せっかく良い事業していても現場が疲弊してしまい、受け入れが難しくなってしまう。保育現場では保育士の配置基準が現状にあっておらず、もともと負担感が大きい。まずは、園の運営が安定するようしっかり予算をつけてほしいです」と話していました。

専門家「現状の改善は必須」

「こども誰でも通園制度」導入の背景について、保育や子育て支援の問題に詳しい玉川大学の大豆生田啓友教授は「今は昔のように子どもが地域の中でいろいろな人に関わる経験がほとんどなく、親の孤立も大きな問題になっている。0歳から2歳の子どもが同じ年齢の子などと関わりながら育つことのメリットのほか、親にとっても保育士にいつでも相談できる場ができることはメリットがある」と指摘しています。

一方で、子どもを受け入れる保育の現場では保育士不足が常態化し、負担軽減を求める声が多く上がっていることについて「制度をうまく運用していくためにも保育現場の現状の改善は必須だ」としたうえで「地域によっては子どもを受け入れる受け皿が十分ではないと思うので、できるところからできることを始めていかないと制度自体が負担になってしまう可能性がある。保育現場の声を聞きながら、保育士の待遇改善や配置基準の問題などとセットで議論を進めていくことが大事だ」と話していました。


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