奈良がわかる! 保育料無償化、なぜ見送りに?




朝日新聞DIGITAL
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はなくいどり 奈良県が検討していた保育料無償化が、見送られることになったと聞いたよ。残念に思う保護者もいるんじゃないかな。

 A 第2子以降の0~2歳児を対象とした制度創設のことだね。現在の国の制度では3歳以上は一律無償だけど、0~2歳については市町村で対応が異なっている。そこで、無償化を実施する市町村には、県も費用の一部を負担するという補助制度を作り、県全体に無償化の流れを広げていこうと考えられてきたんだ。

 は 山下真知事は、子育て支援の充実を掲げているもんね。

 A 知事選の公約では、保育料無償化へ向けて実施主体の「市町村と協議する」と意欲を示していた。昨年12月の朝日新聞のインタビューでも、制度創設について首長らの意向を踏まえたうえで最終判断したいと語っていた。でも、今年1月に開催された県・市町村長サミットで、「時期尚早」と言って見送りを表明したんだ。

 は 市町村側が難色を示したということ?

 A いや、むしろ好意的だったと言える。県内全39市町村を対象としたアンケートでは、県が制度を創設した場合に「活用したい」と回答した自治体は33に及んだ。

 は じゃあ、なぜ見送ったの?

 A 無償化を進めた場合、保育ニーズが高まり現場の負担が増えて対応が追いつかなくなるという懸念が浮上したという。県が昨年実施した調査で、現状でも現場が疲弊している実態が明らかになったことも理由の一つだ。

 は どんな調査?

 A 保育士(回答2275人)などを対象に調査した。まず、休憩を「ほぼ取れない」「取れないことの方が多い」と回答した保育士が4割近くを占めた。人手不足や保育日誌などの書類作成の業務が影響しているようだ。有給休暇の取得状況も低い。給与面では、年収200万~300万円未満が最も多く、20代では5割超だった。「仕事量が多い」「責任が重い」といった職務内容と比べて給与が安いと感じている保育士は7割を超えている。

 は 「割に合わない給与」が、就職を阻む要因になっていそうだね。

 A 大阪府に隣接する奈良県ではさらに、保育士の県外流出という地域的課題も指摘されている。というのも、県内の大学や専門学校を卒業して保育施設に就職した保育士のうち、半数が県外で働いているんだ。

 ちょっとややこしいんだけど、国は保育事業者に運営費を支給する基準となる公定価格を定めている。そのうち、各地域の給与水準を左右するとされる「地域区分」というのが市町村ごとにあって、この水準が大都市の大阪府と比べて奈良県は総じて低いんだ。実際、奈良県の保育士の平均給与は月額25万5300円で、大阪府の28万6500円とは開きがある(2022年、厚生労働省調査)。

 は 無償化よりも先に、保育士の処遇改善が必要なのかなぁ。

 A 山下知事はそう考えているようだ。そこで、新年度からは、市町村が民間保育士の給与を上乗せする費用の一部を県が補助する方針を決めたよ。いまのところ、県内では5市(奈良、生駒、橿原、葛城、香芝)が、民間の保育施設を対象に保育士の給与を月1万~2万円程度上乗せする制度を独自に設けているが、県が財政支援をすることで、網を広げ、より充実させる狙いだ。都道府県による同様の補助制度は西日本では初めてらしい。

 は 保育施設側はどう受け止めているのかな。

 A 奈良県保育協議会の副会長でもある、白樫学・もり保育園長は県の方針を前向きに受け止め、こう話しているよ。「保育士は、人格形成の時期に子どもに寄り添う重要な仕事で、最近は保護者のニーズも多様化している。保育の質を高めるためには、休みがしっかりとれるだけの人員確保も重要になる。地域だけの問題ではなく、国全体で待遇改善に取り組んでもらいたい」

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 オシドリの「はなくいどり」は朝日新聞奈良総局の公式キャラクター。正倉院宝物にも描かれた吉祥文様です。花をくわえて、最新のニュースや身近な話題を求めて県内を飛び回ります。(阪田隼人)

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