人手不足の介護業界 現場から仕事の魅力を発信する動き…「きつい」イメージ転換へ

読売新聞社


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 介護の仕事には、「大変そう」「給料が安そう」といったマイナスイメージがあり、人材確保が難しくなっている。「団塊の世代」が75歳以上になる2025年を境に高齢者は急増し、介護職員に期待される役割は一層大きくなる。介護の仕事を前向きに捉え直そうとする動きを追った。(阿部明霞)

誇り・やりがい 大会で訴え

 「介護職が、なくてはならない存在だと声を大にして言いたい」。前橋市で昨年11月に開かれた介護関係者のスピーチ大会「ベスト介護JAPAN」。横浜市から出場した訪問ヘルパーの川崎恵子さん(52)はやりがいを語った。

 川崎さんは介護職員歴約30年のベテランだ。介護福祉士やケアマネジャーの資格も取り、住み慣れた自宅で余生を送りたいと願う高齢者に寄り添ってきた。かつて担当した100歳を超える男性との思い出を題材に、「利用者の人生を丸ごと受け止め、悔いのない最期を迎えてもらうための手伝いができる」と強調した。

 介護の仕事には入浴やトイレの介助がある。特別養護老人ホームなど施設では夜勤もある。業務負担の重さから、「きつい、汚い、危険」を表す「3K」職場と言われることがある。

 川崎さんは、介護職員の間でも「介護の仕事なんて……」と不満が漏れるのを耳にし、「仕事への誇りを伝えたい」との思いが強い。

 こうした現場の声を広く発信しようと、大会を企画したのは前橋市で介護事業を営む高橋将弘さん(41)。介護職のイメージを高め、若者や子どもたちに憧れてもらえる業界にしようと、22年に始めた。

 介護が必要な高齢者は580万人を超え、介護保険制度が始まった00年度(184万人)の3倍以上だ。高齢化はさらに進むため、介護職員の役割はより重要になる。高橋さんは「現場で輝く職員が介護の魅力を伝えることで、応援したいと思われる職業にする必要がある」と話している。

 大会には、インドネシアから特定技能制度で来日したアブリアンティ・ルクミニさん(27)も出場。勤務していた施設の利用者から「自分の孫だと思っている」と笑顔を向けられた時を振り返った。祖国では、父を亡くし、働きに出る母の代わりに、祖母に育てられた。「祖母を思い出して感激した。心を込めて、介護の仕事に取り組みたい」と、活躍を誓った。現在は、介護福祉士の資格を取得するため、群馬県渋川市の群馬パース大学福祉専門学校で学んでいる。

 また、同校に通う丹羽智浩さん(21)は、介護の仕事を「活気のある、輝ける、価値のある」の“ポジティブ3K”とする持論を展開。「家族も介護の仕事に暗いイメージを持っていた。まずは身近な人たちに、魅力を伝えたい」と話している。

「3K」職場印象 人材難深刻

 「3K」職場のイメージもあり、介護業界の人手不足は深刻だ。厚生労働省がまとめた22年度の有効求人倍率は、訪問介護が15・53倍、特養などの施設が3・79倍と、全職業平均(1・31倍)を上回る。

 公益財団法人・介護労働安定センター(東京)の22年の実態調査でも、事業者が抱く「人手不足感」が示された。職種別で、人手不足と回答する割合が高いのは訪問介護員の83・5%、施設などの介護職員の69・3%。全体平均で66・3%だった。

 新年度の介護報酬改定では、プラス改定の1・59%のうち0・98%分を介護職員の賃上げのためだけに使えるように設定するなど、政府は人材確保を後押しする考えだ。事業者の間でも、週休3日制の導入や情報通信技術(ICT)の活用などで、働きやすい職場づくりを進める動きが広がっている。

 少子高齢化で生産年齢人口(15~64歳)が減り、産業の分野を問わず、人材獲得競争の激化が予想される。人手を確保し、介護サービスを維持するため、マイナスイメージの解消は急務だ。

行政、動画や冊子でPR

 介護業界に対するマイナスイメージを 払拭ふっしょく し、人材確保につなげようと、厚生労働省は18年度から魅力発信を続けている。

 介護の現場で活躍する職員へのインタビューや、介護業界の関係者によるトークショーを動画配信するなどし、介護の仕事を紹介。厚労省の担当者は「やりがいや働きやすさを伝え、多くの人に関心を持ってもらいたい」と話している。

 自治体の間でも、介護の仕事に対する意識調査を基にイメージ向上に取り組んだり、子ども向けにパンフレットを配布したりする動きがある。(2024年2月7日付の読売新聞朝刊に掲載された記事です)

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